ひうい譚

「あなたのキスはdurational? それともpunctual?」

大阪弁と固有名詞

この前の部活のミーティング終わりに友達から

「なぁにが"ひうい譚"や、すっかりやめてもうてるやないか。」

と言われたので、久々に、書く。

前の記事の日付を見てみると、最後にこのブログを更新したのは6月なので、ほぼ半年間何もしていなかったことになる。いや、本当は何個かネタがあって、それを投稿しようとしたのだが、ちょうど1000字くらいまで書いてから「このテーマはやっぱりちょっと面白くないかな?」(これ卒論書いてるときとかに思っちゃったら終わりでしょ)という思いに毎回苛まれてしまうようになり、結局「下書き保存」だけで終えてしまっていたのである。

 

ただ今回は、やっぱり大晦日だし、一つくらい書いてから実家に帰ってもいいなと感じたので久々に書かせていただく。

さて、今回の論点は大阪弁で固有名詞を発音することはおもしろいのか?」ということである。ここで意味する「おもしろい」とはいろいろな意味があると捉えてほしい。「おもしろい」でも「めずらしい」でも「滑稽」でもいい。

 

事の発端は、私が東京へ遊びに行った時である。おそらく今年の2月か3月くらいの話で、そこで、私は東京に住んでいる自分の同期の旧友(♂)と、同じく東京に住んでいる一つ下の後輩(♀)と、確か渋谷の街をぶらぶらまわっていた。久々に会った二人と適当な話を楽しみながら歩いていたわけであるが、途中で後輩が私に尋ねてきた。

「ひういさんはaiko好きなんですよね。」

私はaikoがもちろん好きで、「今後の人生で一人のアーティストの曲しか聴けなくなるとしたらどうする?」という問いには迷わず「aiko」と答える自信があるくらい好きだ。だから、

「うん。aiko好きやで。」

と返した。するとその後輩は

「私もたまに聴きますよ。なんかシャッフル再生したら毎回同じ曲が流れてくるんです。」

と言う。なるほど、と私は思った。要するに彼女はなにかMP3 playerだかiPodだかを持っていて、そこに知らないうちにaikoの曲が1曲紛れ込んでしまい、特別興味があるわけではないが、シャッフル再生すると時々その1曲が流れる、ということなのである。私は興味がわいたので次に質問した。

aikoのなんて曲?」

内心、(たぶん"花火"か"カブトムシ"か、あって"ボーイフレンド"とかだろうな)と踏んでいた。すると彼女は次にこう言う。

「なんか、"あなたのいない世界には私もいない~"みたいな曲ですよ」

これを聞いたとき私は吹き出してしまった。なぜならaikoの曲のうち、9割くらいはたぶん「あなたのいない世界には私もいない」的なことを歌っているからである。昔話の「ももたろう」を要約すれば「桃太郎が仲間の動物たちを連れて鬼退治にいく話」となるように、aikoの曲を要約すればだいたいの曲は「あなたのいない世界には私もいないといったことを歌っている曲」になるのである。。逆に「あなたのいない世界には私もいない」的なことを歌ってない曲を探す方が難しいんじゃないか。ここまで考えて私は次にこう言ってみた。

「いやaikoはだいたいそういう曲歌ってると思う。なんて曲やろなその1曲は?」

そういうと彼女は自分の音楽プレーヤーを取り出して、そこに唯一入っているといわれるaikoの曲を探し出して聴かせてくれた。私はaikoの曲でイントロドンしたら大阪1位くらいになれるんじゃないかと思っているので、一瞬でその曲がaiko「くちびる」という曲であるということがわかった。

そして言わずもがな、aikoを普段からアホほど聴いてる人ならわかると思うが、aikoの10枚目のメジャーアルバム「時のシルエット」の二曲目として収録されている「くちびる」の歌い出しはまさに

「あなたのいない 世界には わたしもいない」(正しくは "あぁなたぁのいなぁぁい せぇかぁいにわぁぁ わぁたしぃもいなぁぁぁあああい")

なのである。(ここ笑うとこです)

私は後輩に「あぁ、たしかにこれは"あなたのいない世界には私もいない"やな、まさに。ごめんごめん」と軽くあやまってから、「これは"くちびる"って曲や」と答えた。

問題はここからなのであるが、この返答に対して後輩は少し笑いながら

「フフッwwwww "くちびる"って言うんですね。」と答えたのである。

なぜこの後輩は私の返答に笑ったのか。今回の記事はここに焦点をあてていきたい。

 

結論からいうと、彼女が笑ったのは、「私の"くちびる"の言い方が大阪弁だったから」である。普通、標準語の「くちびる」は

「く→ち↑び→る↓」

なのに対して、大阪弁

「く→ち→び↑る↓」

となり、なんだか座りが悪いというか、気の抜けた感じがある。

実際にその場でこの言葉を発していた自分も「なんか、aikoの"くちびる"ってこんなやったかな」とよくわからない違和感を抱いていたのである。

 ここで大阪弁の弱点というか、悲しき現実のようなものが見えてくる。日常的に自分も大阪弁を使っているし、テレビで方言女子特集なんかがやっていると、必ず大阪弁も取り上げられ、「好きやねん」とか言う女子がカワイイとかなんとか言われたりしている。ただ、大阪弁は文字にすると、それはそれは、"ダサい"。だから文字でなにかを残すとき(SNS全般やブログなど)はどれも大体標準語なんだろうと思っている。そしてもうひとつ、こちらが今回の記事の核なのであるが、大阪弁で固有名詞を発音すると、それもまた、"ダサく"なるのである。

 先ほどの「くちびる」もよい例であるが他にもこんな固有名詞が、大阪弁で発音すると"ダサく"なる。

「プレーステーション(ゲーム機)」

大阪弁で言うとなんだかおばあちゃんが初めて聞いた言葉を言ってみたみたいな感じになる

舟を編む三浦しをんの本)」

ギャグっぽい

「星のない世界(aikoの曲)」

これまたギャグっぽい

勝手にふるえてろ綿矢りさの本)」

いや実際に命令してきてるんかいな

などなど、いくらでもあげることができる。

ただし、「ユニバ」「乃木坂」などはそのまま大阪弁で発音されたりするので謎である。

 そしてここで面白いことは、我々大阪人は、普段大阪弁を使っているのにも関わらず、固有名詞の発音に際しては、その都度標準語への切り替えを行っているということである。頭の中に一種の基準があり、それを使って「これは大阪弁のままでよし、こちらは標準語にもどし」と判別しているのだと私は思っているが、一体その基準とは何なのだろうか。私はただのしがない言語学専攻の1学生にすぎないので、これについては音象徴とか調音法とかに詳しい音声学者に丸投げするので、誰か調べたい人、卒論にしたい人はぜひ研究して、その卒論のSPECIAL THANKSにこの「ひうい譚」のURLを貼って提出していただきたい。

ぜひ皆さまも、日常的に目にする固有名詞を一度口に出してみて、標準語と大阪弁でどのような聞こえ方の違いがあるのかを見つけていってほしいと思う。

 

ちなみに自分は大阪弁を誇りをもって使っているので、大阪弁が"ダサい"からと言って標準語の方がいいとか標準語を使っていくべきだとかは一切思っていない(常に"ダサい"を引用符で囲っているのもそのせいである)。

 

ところで、自分の好きなアーティストのことを「私も好きです!」と言ってくれる子に会うのは楽しい。そして、そういうことを言ってくれる子の言う「そのアーティストのお気に入りの曲」が、メジャーな曲でなかったときはもっとうれしい。私はSHISHAMOも好きだが、昔私のバイト先の後輩の女の子が「SHISHAMO好きなんですね!私もききます!」と言ってくれたので、(まあたぶん「君とゲレンデ」「君と夏フェス」「明日も」とかだろうな)を思いながら「あそうなん!どの曲が好きなん?」ときいたとき、「やっぱりSHISHAMOは"花"ですね!」と言われた。SHISHAMOの曲の中であえて「花」を選ぶそのセンスに私は脱帽した。その時はあやうくうれしすぎて恋におちそうになった。まさに「恋に落ちる音が聞こえたら」やね。

いうてね。