ひうい譚

「あなたのキスはdurational? それともpunctual?」

獣の走る家

お久しぶりです。

昨年7月から更新のなかったひうい譚、ここへ来て久々の生存報告もままならぬまま、勢いに任せて唐突に学生時代に住んでいた家の話を書きたいです。

去年の7月から、生活環境はめくるめく変化を見せ、本当は書きたいことが山ほどあります。居住地は関西、九州、関東へと移行し、職場環境も一気に変わったかと思えば、11月には車を購入して、ンバアアアンバアアアアと首都高やら新東名やらを縦横無尽に走って、そうしてなんとか生きている日々です。

さて、去年から自分に舞い戻ってきたブームといえば、それは怪談ブームであると言えます。去年の夏は稲川淳二を怪談をこれでもかと漁り、spotifyで配信されているものを全て聴きってしまい、それでも足りずにYouTubeに行って誰がどこから拾ってきたのかも分からぬ音源を聴きながら毎日眠っていました。さらには、木原浩勝新耳袋を実家で読み、古本屋で買って読み、合計で5冊読破まで。

このように怪談ばかりを読んでいると、昔の自分の思い出ももしかすると怖い話なのではないかと思えてきて、どんどん怪談脳になってきました。

このような状態の中、私が感じた「もしかしたら怪談話」を一つ書いておいて、今回の生存報告といたします。

 

私が大学生1回生から4回生の終わりまで住んでいた下宿は、かなり年季の入った家でした。築年数は50年を超えており、もともと一軒家だったものを改築し、出入り口を2つにし、1階と2階に分けて人が住める造りとなっているもので、木造も木造、いろいろな音が響き放題のぼろぼろ住宅でした。全体的に古く、洗濯機は外置き、夏には風呂場にナメクジが、食べ残した食器を机に置きっぱなしにしているとどこからともなくアリがやってきておりました。そこの1階に私は住んでいました。2階には当初、大学院生の男性が住んでいましたが、私が大学3年生になったころに卒業され、しばらく2階は空き家の状態となりました。散々な家かと思われるでしょうが、大阪で家賃が3万円であったこともあり、4年弱、特に不自由なく(麻痺)生活しておりました。何気に大阪北部地震でもびくともしなかった家であります。

 

しかし、私の三年生の終わりごろからちょっとした異変が起こり始めました。具体的には、天井でドッドッドッと音が響くようになりました。猫か犬か、そのくらいの大きさの獣が走るような音です。その音が鳴るのは不定期で、週に何度も鳴る日もあれば、ひと月に1回の時もありました。ただでさえ木造で音が響くため、ドッドドッドドッドと何かが走るたびに家がそこそこ震えていました。大学生の男でありながら、この音を聞くときは、そこそこ怖い思いをしていました。「(お、また走ってる、、、)」と思いながら、天井を見つめるばかりでした。

 

こんなことが何カ月か続いた後、もっと生活に実害が出る形で影響が出始めました。ある日、キッチンの電子レンジの裏をたまたま覗いてみると、そこにはびっしりと何かの糞が落ちていたのです。2~3mmほどの黒い粒が無数に落ちてました。この時ばかりは私もこの家のことを少々恨んだというか、なんとも悲しい気持ちになりました。糞を除去し、キッチンにあったインスタント食品などはすべて捨て、食器はすべて洗剤で除菌、家具をアルコールで磨いて、衛生面を整えました。骨の折れる作業でしたが、ここまではなんとかやっていけるところ。問題はこの糞の主を特定し、除去することでした。

ただ、この主を倒すことにはそれほど時間がかかりませんでした。なぜなら、ある日、相手から私に姿を見せたからです。糞の一件があった後も、懲りずにキッチンで料理をしていた時、キッチンのすぐ隣の玄関に目をやると、ものすごい勢いで、にぎりこぶし程度の大きさのネズミ(本当になんのかわいげもないネズミ中のネズミ)が現れて、玄関の引き戸の桟の部分のわずかな穴に消えていきました。

その日はこれ以上何もできなかったのですが、翌日からネズミ用の罠(市販のねばねばした溶剤が塗ってある板)を玄関の通り道に設置、いつ現れても良いように待ち構えておりました。結果、しかけて3日ほどであっけなく捕獲。「ミーミーミー!!」と聞いたこともない声を出しながらねばねばにひっかかり、しかしこの状況で私もどうにもできないためそのまま3日放置。ネズミが絶命したところで燃えるゴミで処理しました。

 

この1件以降、ネズミも、ネズミの糞も、天井の獣の音も、全てなくなりました。

結局のところ、天井はネズミが歩いていただけであり、その1匹がいなくなったため、音もろともなくなったということらしいのです。その後、4年生の12月、私はこの家をでて、よりキャンパスに近いところへ引っ越すこととしました(贅沢)。めでたしめでたし。

 

 

 

・・・と、今のいままで思っていたものの、あの天井の音は、ただ単にネズミが走り回っていただけの音とは思えないものでした。ネズミ1匹があれほどの音を出せるのか、未だに思い出しては疑問を抱きます。

もしかすると、まだあの私の住んでいた家では、天井で獣か、もしくは獣ではない何者かが走っているのではと感じられずにはいられないのです。

誰も真相は知りません。次にあの家に住む学生さん、いらしたらぜひ教えてください。

 

ではまた、