ひうい譚

「あなたのキスはdurational? それともpunctual?」

フィクションとしての不倫を読み解く

私が日本へ帰国して受験期に入った時、世は空前の「逃げ恥」ブームであった。星野源が歌い踊り、新垣結衣が可愛さを振りまきまくって、石田ゆり子が色気をぶちまけていた時期である。ドラマが放送する火曜日の翌日の水曜日は、予備校の一角で帰国子女が集まってドラマ内容について感想を言い合うのが恒例になるほど、「逃げ恥」の威力には凄まじいものがあった。

この時から、私の中での小さなドラマブームが始まることになる。これは必然だったともいえる現象で、帰国子女で特にアメリカ文化(洋楽や洋画)にあまり染まらなかった者たちは、日本に「日本らしさ」を存分に期待して帰国してくるからである。アメリカで押し殺すことを強制されていた「日本熱」たるものが幾年の時を経て解放されるのだ。日本では日本語が通じる。おにぎりが売ってるコンビニがある。おいしいお菓子がある。おいしい居酒屋がある。電車でどこまでも行ける。自転車でどこまでも行ける。アイドルが、アニメが、漫画が、遊戯王がある。これがどれだけ幸せなことか。

 

そして、ドラマブームに入った私は「逃げ恥」以降、様々なドラマをみた。「東京タラレバ娘」「お母さん、娘をやめていいですか。」「コードブルー」「賭ケグルイ」「電脳少女」「わたしに××しなさい!」「ホリデイラブ」「獣になれない私たち」etc...。これがどれも面白くて、ドラマの内容自体が別段面白いものでなくても、日本の会社風景、学校風景が映るだけでなにかと面白いと感じられるのだ。そして、日本の俳優が出てるのを見るだけで楽しいという感覚にまで陥るのである。

 

さて、今回はこの(私の)ドラマブームにおいて、未だ高い人気を誇る(当社比)「あなたのことはそれほど」について書きたい。そしてなぜ不倫モノがあれだけ人の(というか私の)心を動かすのかについて考えたい(要するに不倫モノがおもろいのはなんでやろなって話です)。

※(すでに視聴したのが1年前なため、ところどころ詳細があいまいになってしまっているかもしれないがそこはご了承願いたい)

 

さて、まず不倫うんぬんについて考える前に「あなたのことはそれほど」がどういうドラマなのかを説明しよう。ストーリーとしては、主人公で既婚者の美都(波留)が、同じく既婚者の有島君(鈴木伸之)と不倫する、要するにダブル不倫で、その不倫がお互いの結婚してにばれそうになって...というものだ。その中で今回は不倫に焦点をあてたい。

さて、不倫の魅力とは何か。それはずばり不倫という概念に「動物的要素」と「人間的要素」の両方が内在することによる矛盾にあるのではないかと思う。なんだか難しいことをいい始めたぞと思った人たくさんいるかもしれませんが、ひとまず解説を読んでほしい。今回は英語だとか文型だとかそういうはしないので。

私のこのドラマにおける、一番好きなシーンを紹介しよう。それは、美都が有島君と逢瀬を重ねる直前、確か家を出る前かなんかの時に、左手の薬指から結婚指輪を外して置いておくというシーンだ。このシーンは私のまだ数少ない視聴済みドラマの中でも圧倒的1位を誇るシーンと言っても過言ではない。そしてここに、まさに不倫における「動物的要素」と「人間的要素」の両方が描かれているのだ。

まず「動物的要素」とは何か。これは想像に難くないが、欲求のままに不倫に走る行為そのものを意味している。普段の生活からかけはなれた、欲求に支配された行動。人間の理性が欲求に負ける(哲学に詳しければもっと適切な単語が浮かびそうなものだが)、本能に従うこと。自分も既婚者であり、不倫相手も既婚者というのは間違いなく人間的にタブーであるが、そのタブー性を忘れて行動する、本来の人間世界からの逸脱。SFの世界。フィクションとして描かれた日常から外れた風景に視聴者の我々は好奇の目を向けるのである。

その一方で、不倫には「人間的」といえる側面が存在する。それは、既婚者との交際ということに喜びを感じるということだ。人間のつくったルールからはずれることに喜びを感じる、そう感じることはまさに人間独特ではないか。動物にそう詳しくないので例は出せないが、すでに別々のペア、もしくは決まっているグループに属するオスメスが秘密裏の交尾を楽しむといったことがあるだろうか。なわばり争いがせいぜいだろう。欲求が理性に勝ることは一見動物的だが、そこから引き出された行動から生まれる喜びへのメカニズムは人間的だ。

私の好きなシーンの話に戻すと、ここで面白いのは、美都は欲求のままに行動し、有島君に会いに行くという動物的な行動をとりながらも、結婚指輪をはずすところだ。動物的行動に走りながらも、人間的な観念、つまり、不倫する時には既婚者の象徴である指輪をしていてはいけないという考えに囚われているのである(まさに獣になれないわたしたち)。その上で、そういう考えに囚われながらも不倫することに喜びを感じている。このシーンではまだ美都が既婚者であることを有島君は知らないため、指輪をはずすのは「相手に既婚者であることを知られたくないから」かもしれないが、もしそれがばれていたのとしても、美都は結局は指輪を外しそうだと感じる。とにかくこのシーンが実に面白い。このシーンを見た時、私は

「う~~~んwwww良き~wwww」

となった。この動物と人間の板挟みになったシーンがたまらなく面白い。好きです不倫モノ。

 

長々と語りましたが、ご理解いただけたでしょうか。もし少しでも気になったのなら「あなたのことはそれほど」の視聴、続けて「ホリデイラブ」「あなたには帰る家がある」などの視聴もおすすめします。本当は「あなたのことはそれほど」について語りたいことはいっぱいあって、波留だけじゃなく、鈴木伸之の相手役の地味なキャラを演じる仲里依紗が最&高だとか、私の中の東出昌大がこのドラマの東出昌大のイメージになってしまったので映画版アオハライドが見れなくなっただとか、美都の母親役の麻生祐未が一番いい味だしているだとか、あまりに麻生祐未が波留のことを「みっちゃん」と呼ぶのでその辺の角から唐突に斉藤由貴が出現しないからハラハラしただとか、そういう話がたくさんストックされているのですが、そこはまた機会があれば、この場に投下していきたいと考えております。それでは。